(,,゚Д゚)瑠璃絵灯籠あやかし草子 のようです('A`)
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2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:28:40.97 ID:Ivozand50
□ 城趾にて(1)

――福岡県宗像市、蔦ヶ獄。
三郎丸登山口。

どこまでも続く、山肌をくり抜いたような剥き出しの地面。
木で組んだ階段が数歩おきに、申し訳程度に続く。

(;'A`)「あぢぃ……」

初夏とはいえ、九州の日差しは質が違う。
木々の間から降る日差しの熱に、堪らず足を止める。
側面に張り出した木の根に手を突くと、赤茶けた土が掌の汗に溶けて残った。
  _
(; ゚∀゚)「おいドクオ、どこまで登りゃいいんだよコレ!」

隣には、俺と同じように立ち止まり、膝に手を付くジョルジュ。
背負った大きなリュックがふらふらと揺れている。
掻き上げてサングラスで前髪を留めたその額から、汗がぽたぽたと落ちた。

(;'A`)「俺が、知るかよっ」

登りの斜面を見ながら言い返すが、腹に力が入らない。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:31:53.89 ID:Ivozand50
と、俺の視線のはるか先、緩いカーブの先から、カーキ色の探検服が姿を覗かせる。

/ ,' 3「何じゃ、最近の若いモンは。
    ホレ、こんな所で休んどる暇はないぞっ」

手を振り声を張り上げるのは、荒巻教授だ。
言うだけ言って、またひょいひょいと登っていってしまう。
スーパーひとし君みたいな時代錯誤の探検服姿が、斜面沿いに続く木陰の影に消える。
  _
(; ゚∀゚)「ンだよあのジジイ、年甲斐もなくはしゃぎやがって。
     これじゃ、俺らを連れて来る意味なんかねーじゃねーか!」

身体を起こして、ジョルジュが毒づく。
俺も全く同じ意見だったから、何も言わずにシャツの裾で掌を拭った。
  _
(; ゚∀゚)「ったくよぉ。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねえんだっつう話だよ」

(;'A`)「自業自得だろ」

ぼやくジョルジュに言い返して、呼吸を整えながら、また一歩。
終わりの見えない斜面を、踏みしめた。



……試験期間も終わり、大学はとっくに夏休み。
本当なら、クーラーの効いた東京の部屋でゆっくりエロゲでも嗜んでいるはずの俺が
こんな所でこんな事をしているのには、訳があった。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:35:17.91 ID:Ivozand50
前期講義の終了間際。
日本史の研究室でのことだ。

/ ,' 3「ドクオ君、ジョルジュ君。
    君たちをここに呼んだ理由は、当然分かっとるね?」

竹島大学文学部教授、荒巻スカルチノフ。
専攻は日本史。その筋ではちょっとした有名人らしい。
まあ、知った事じゃないが。

重要なのは、こいつが俺のゼミの教官を兼任していて。
そして、俺たちの生殺与奪権を握っているという事実だけだ。

('A`)「……はい」
  _
( ゚∀゚)「あー、まあ。へへっ」

俺の隣でジョルジュが頭を掻く。
チャラい服装はしているが気は良い奴で、知らない仲じゃない。

/ ,' 3「ドクオ君は出席日数不足、 ジョルジュ君はレポート未提出。
    このまま行くと、二人とも留年……と言うことになるの」

俺たちは流石に言葉もなく、無言でうなだれる。
しかし、その言葉には続きがあった。

/ ,' 3「……ところで。最近、ちょうど面白いモノを見付けてな。
    調査旅行に行きたいのじゃが、あいにくこの歳での」

そう言って、白髪まじり……と言うより、むしろ黒髪まじりの頭を撫でる。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:39:09.30 ID:Ivozand50
/ ,' 3「資料も持っていかねばならんし、荷物持ちに写真撮影、力仕事。
    どうにも人手が足りんのじゃ」

そう言って、意味ありげな視線で俺たちを交互に見る。
  _
( ゚∀゚)「はあ、そーすか。
     センセーも大変ッスね」

バカかお前は。

('A`)「……何を言いたいんですか? 教授」

/ ,' 3「君たちは頑張っておるし、一年を無駄にさせるのも忍びない。
    さりとて、当然タダで単位をやるわけにもいかん。
    ……だが、の」

教授はにやりと笑い、袖机の引き出しを開けた。
古く、枯れ葉色に変色しかけた和綴じの本をそっと取り出し、机に置く。

/ ,' 3「研究を手伝ってくれるなら、それはゼミの活動の一環。話は別じゃ。
    ジョルジュ君も、分かるかね?」

言葉こそ問い掛けだが、それは取引じゃない。

選択の余地は、なかった。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:41:04.04 ID:Ivozand50



          (,,゚Д゚)瑠璃絵灯籠あやかし草子 のようです('A`)



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:42:39.31 ID:Ivozand50
重い荷物を抱え、汗を流しながら歩くこと十数分。
山の中腹に差し掛かると、視界は一気に広がった。

('A`)「うわあ……」

素直に感嘆の声を上げざるを得ない。
目下に広がる景色は、それほどに素晴らしいものだった。
  _
( *゚∀゚)「うおお、すげー! 見ろよドクオ!
     なんかこういうのって、感動するよな。な?」

小学生みたいにはしゃぐジョルジュに素直に頷き返し、見渡す。

遮るものなく開けた視界。
こんな広い空間を見るのは、東京で生まれ育った俺には生まれて初めてだ。

開けた木々の合間に、高く青い、雲一つない空。
吹く風は流した汗の分だけ爽やかで、疲れも消えていくように感じる。

見下ろすと、山の裾野に沿って延びる尾根筋。
麓から先には、田の字に整然と区切られた田畑。ところどころにミニチュアの民家。
横切る国道三号線のずっと向こうには、また別の山の稜線が幾重にも連なって続く。

/ ,' 3「たまには都会を離れて、こういう景色を見るのも良いじゃろう。
    これが史跡探訪の醍醐味、というやつじゃな」

道の端の柵に腰掛けて、荒巻教授はしたり顔で頷く。
薄い手袋を両手に嵌めると、ポーチから古書を取り出した。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:44:15.83 ID:Ivozand50
/ ,' 3「さて。この『蔦ヶ獄城(つたがたけじょう)』のことじゃが。
    出発前に渡しておいた資料は読んだかの?」
  _
( ゚∀゚)「いや全然。っていうか家に忘れました」

/ ,' 3「……」

お前な。

('A`)「……蔦ヶ獄城。かつての黒田藩、戦国時代には宗像(むなかた)氏の居城です。
   城主が死んだ後、1588年、豊臣秀吉によって破却され、廃城になった、と」

/ ,' 3「うむ、よろしい」

手にした古書のページを摘み、丁寧に捲る。

/ ,' 3「じゃがな。ワシがつい先日手に入れた、この本。
    ここに書いてある話が、仮に真実だとすると……」

古書は、よく見ると所々に薄い和紙の切れ端が挟んである。
荒巻教授がしおり代わりに挟んだのだろう。
そのうちの幾つかを辿りながら、思い出すように口を開いた。

/ ,' 3「蔦ヶ獄城は取り壊しなどされておらず、江戸の初期まで残り続けた。
    じゃが、突如不慮の事態が起こり、城下町もろとも廃れ果ててしまった」

ひと呼吸置いて。

/ ,' 3「そして、幕府はその事実を隠蔽するため、あらゆる記録を改ざんし、関ヶ原の
    合戦前に廃城となったよう見せかけた……と」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:46:46.77 ID:Ivozand50
('A`)「……へえ。すげえな」

俺も、思わず声を漏らす。
教授がはしゃぐ気持ちも分かった。

ときの幕府が総力を挙げて、九州の小国の存在を抹消する。
もしも真実なら、日本の歴史の一部が塗り変わることになる。
もしそれを実証できたとすれば、凄い話だ。

このクソ暑い中を歩き回るだけの価値は、あるのかも知れない。
  _
( ゚∀゚)「でもさ、でもさ。江戸時代の初めに一国一城令が出てるだろ?
     他に歴史に残ってる城があるんだから、蔦ヶ嶽城も取り壊されたんじゃねーの?」

('A`)「複数の大名が分割統治してる国では、大名毎に城を持てるんだよ。
    そもそも、一国一城令はそれほど厳密に運用されてなかったんだ」

厳密に決められたのは、「許可無き城の補修は禁止」「城の新築は禁止」のふたつだ。
このどちらかを破った場合、実際に領地没収などの処罰が行われている。

だが、それ以外。例えば分割統治された国、一大名が複数の領土を持つ場合、それに
特別な「お目こぼし」があった場合などなど、この制度はわりと柔軟に対応されている。
  _
( ゚∀゚)「へー、知らなかったぜ。お前マジ頭いいな」

ゼミでやっただろ。
お前が記憶力悪すぎんだよ。
  _
( ゚∀゚)「で、その『不慮の事態』ってのは何なんだぜ?」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:49:38.81 ID:Ivozand50
/ ,' 3「まあ、そう焦るな。
    じゃが、まだワシにも正確には分からん、というのが正直な所じゃ。
    それを確かめるためのフィールドワークでもあるしの」

('A`)「何だよ。じゃあ、今の話は推測、ってことですか?」

俺もジョルジュも、腐ってもゼミ生だ。日本史には多少なりとも興味はある。
陰謀論めいたものなら、なおさらだ。

/ ,' 3「うむ。何とも言えぬ所じゃのう。しかし――」

しおりの一つを探り当て、開く。

/ ,' 3「この本――というより、手記じゃな。
    これは、その江戸時代の蔦ヶ獄城に勤めていた者が書いたものらしいのじゃ。
    記述は城下の状況から天候、物価、大名家の人相にまで及んでおる。
    これだけの情報を捏造するのは困難なはず……お、あったあった」

姿勢を正し、咳払いを一つ。



/ ,' 3「事の起こりは江戸時代、蔦ヶ獄の城下。
    ある時、そこを旅芸人が訪れたそうじゃ――」




24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:52:59.80 ID:Ivozand50
■ 蔦ヶ嶽城(一)

ある年の春。
城下を、旅芸人の一座が訪れたのであった。

旅芸人なるもの。言葉通り、芸を生業とし各地を旅する者である。

傀儡(くぐつ)、奏楽、芝居、説教。果ては猿廻し、軽業といった大道芸じみた芸。
そういったものを演じ、収入を得ている。

なお、この「芸」には、無論。男であれば陰間、すなわち男娼。
女であれば、娼妓のそれも含まれる。

ただ、身分としては、「河原乞食」とも云うように、賤民である。
そのため「こじき、旅芸人お断り」と書いた札を立てる村町もほうぼうにある。

さて。
四人から成る、この一座が詰める芝居小屋は、連日連夜の賑わいを見せていた。

( ^ω^)「さあさ、さあさ。
      『布袋内藤』(ほていのないとう)一座の芸、旅の道連れ世の道連れ。
      冥土の土産にご覧じろ、ご覧じろ――」

一座の主と思しき小男の口上から始まる。
人相は総じて福顔、丸い顔丸い腹に笑みを絶やさぬ下がり眉。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:56:08.13 ID:Ivozand50
口上は、おおむね、かくの如しである。

――さあさ、さあさ
   内藤一座の芸、旅の道連れ世の道連れ
   冥土の土産にご覧じろ、ご覧じろ。

――夜空に星はあまたあれども、こたびの逢瀬は一期一会
   為さざるや、成らずばすなわち今生の別れ。

――身共、芸に身をやつし、世を渡り旅を重ね幾星霜
   玉磨かざれば光なし、芸は磨きに磨きて身欠きの干魚。

――高きも低きも、仰ぐ月には変わりなし
   殿御も女御も、笑う門には福来たる。
   冬来たりなば夏遠からず、福来たりなば春遠からじ

――春をひさぐは芸にあらねど、笑いをひさぐはいみじき芸にて
   いざ、ご覧じろ、ご覧じろ――

些か、低俗ではあるが。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:00:19.30 ID:DQtcPt3P0
その座長の合図で、まずは日に焼けた肌、筋骨隆々の大男が進み出る。

( ゚∋゚)「……」

控える娘は、胡弓を弾き鳴らし。
その調べに合わせて、大男が舞う。

おう、おう。

幾つかの声が上がる。
それもその筈。
身の丈に合わず、その身のこなしは猫の如し、忍の如しである。

続いて、娘の歌。
胡弓を掻い鳴らし唄う唄は、「葛の葉子別れ」。

ゴゼ、と呼ばれる盲目の女芸人がある。
この娘は目開きだが、その調子は、ゴゼ歌のものであった。

(*゚ー゚)「恋しくば尋ね来て見よ、和泉なる信太(しのだ)の森のうらみ 葛の葉――」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:03:31.74 ID:DQtcPt3P0
この「葛の葉子別れ」、云わば、鶴の恩返しならぬ、狐の恩返し。
母子の別れを歌った、悲哀の王道とも云える。

筋は、こうである。

――平安の昔、和泉の国。
   信太の森に棲む白狐、狩人に遭い傷を負うが、阿部仲麻呂の子孫、
   保名(やすな)に助けられる。保名は身を挺して狐を狩人から庇い、己も傷を負う。

   白狐はいたく心を打たれ、葛の葉、と云う名の美女に化けて現れる。
   狐は保名に添うて過ごすが、じきに男女の情が二人に芽生えるのであった。

   それ男女和合は天地自然の理、森羅万象何ものかこれなからん。
   男女は寄らば相結ばれるが必然、これに逆らう道理はなし、ということである。
   葛の葉は保名の子を成し、童子丸(どうじまる)、と名付ける。

   しかし、幸せは続かぬもの。
   童子丸、五歳の折り。葛の葉がふとしたことから白狐の本性を現すのを見てしまう。
   責められた葛の葉は嘆き、短歌を書き置いて故郷、信太の森に帰るのであった――

その書き置きの短歌が、娘の唄ったそれである。

――なお、この童子丸。長じて晴明を名乗り、陰陽寮の天文博士を任ぜらるのであるが。
   それはまた、別の物語。

これが、年端も行かぬ小娘であるが、中々どうして。
揺れるようなゴゼ独特の調子に、百年も生き恋の甘さも辛さも味わい尽くした如く。
えも云われぬ、切々とした声音である。
さめざめと泣く音が、小屋に満ちる。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:07:14.01 ID:DQtcPt3P0
次なるは、主の男の傀儡。

平たく云えば、風刺劇である。
声色を使い分け、頭も口も足らぬ公方を面白可笑しく演じ、人形を繰る。

( ^ω^(( ・∀・)『花なら、ほれ、咲いておろう。
           その方の顔の真中に、ぽっかりと咲いておる』

( ^ω^((;´ー`)『恐れながら、殿、その【はな】にはござりませぬ』

( ^ω^(( ・∀・)『あれ、何と。ではその方の顔にあるは、鼻にあらずと申すか』

一息置いて。

( ^ω^)「公方殿、鼻先に花咲きて。
      散るはちりぢり、云うも云われぬ、云わぬが仏のほととぎす――」

初めの方こそ控えた失笑であるが。
いつの間にやら、芝居小屋を揺らすほどの大笑となっている。

が、しかし。ここまでは、凡百の芸である。達者ではあるが、足繁く通うには値せぬ。

実のところ。芝居小屋に押し掛ける観衆の注目は、この後の見世物にあった。

川 ゚ -゚)「……」

女がひとり、進み出る。
手には、木組に障子紙の四角い絵灯籠。
同時に周囲に黒い覆布が掛かり、小屋は、薄闇に包まれる。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:10:40.98 ID:DQtcPt3P0
川 ゚ -゚)「――これなるは、天下にただ一つの宝。
     唐より来たる、閉じ造りの絵灯籠(えどうろう)」

闇の中で女は云い、灯籠を掲げる。
寺社の庭にある石造りのそれにはあらず、両のたなごころに収まる大きさである。
ところによっては舟に乗せ、灯籠流しに用いるそれに近かろう。

川 ゚ -゚)「天下の平らかなるよりも、遙か昔。
     西方異国の地にて見い出さる、神秘のともし火」

奇妙な、女である。顎は尖り眼は細く、何処となく大陸の生まれと見える、その顔。
薄暗い中に、ぼう、と浮かび上がる、しろい肌。

足腰は細く、乳房は豊か。従って、着物はやや不釣り合いである。
当世の美に照らしては、到底尤物(ゆうぶつ)、美女とは呼べぬ。
にも関わらず、不思議と惹かれる女であった。

川 ゚ -゚)「心なき墓守の持ち出したるその宝、旅に旅して、唐の国へ。
     如何なる奇縁にや。
     今や、巡り巡りて我が一座が主、内藤が許にあり」

芝居小屋のそこここから、期待に満ちて嘆息めいた、吐息。
唾を飲む音まで聞こえんばかりである、

川 ゚ -゚)「されば、とくと御覧あれ。
     彼方より来し、かくも表し難きこの光――」

いつ火を入れたとも見えぬ、その柄灯籠。

――音もなく、ぼう、と内から輝き始める。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:14:07.59 ID:DQtcPt3P0

おお、ほう、ほう、おう――――!

小屋を揺らすほどの歓声、嘆息。これまでの芸の比ではない。
火も起こさず手も触れず、ひとりでに灯るのである。
これを驚かずして、何を驚こうか。

そればかりではなく。
ふわり――と、その灯籠が浮くのである。
支えを失いなお輝き、女の手から一尺ほども。

その光は、奇妙な青であった。
灯籠の覆いの障子紙には青い墨で山水画が描かれており、それが妖しく輝くのである。

川 ゚ -゚)「描かれたるは、これも遙か彼方。
     大海の、底の底のそのまた底を描いた『瑠璃絵(るりえ)』」

海も近い地であるが、その底を見たことがある者など居らぬ。
おおう、であるとか、ああ、と嘆息し、ただ魅入るばかりであった。

この摩訶不思議なる灯籠の芸見たさに、連日の大入り。

その評判は、たちまちの内に藩主の知るところとなったのであった。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:17:30.28 ID:DQtcPt3P0
□ 城趾にて(2)
  _
( ゚∀゚)「光って飛ぶ灯籠?
     うそくせー、なーんかうそくせー」

あからさまに怪しげな様子で。
ポケットから煙草を取り出しながら、ジョルジュが言う。
ズボンの腰に携帯灰皿を下げている辺り、なかなかエコな奴だ。

('A`)「……」

だが、心中ではジョルジュと同感だった。
そのインチキ臭い灯籠と、幕府が隠そうとした「不慮の事態」とやらに、
何の関係があるって言うんだ?

/ ,' 3「そうじゃな……」

だが、教授は真面目な顔だ。

/ ,' 3 「この辺りにはの、付近と比べても変わった点がいくつかあるのじゃ。
    その一つが、怪談話、怪奇現象の多さじゃな。
    ジョルジュ君。『犬鳴トンネル』は知っておるかな?」
  _
( ゚∀゚)「いぬなき……あー、知ってる知ってる、知ってます。
     霊が出るから封鎖された、ってトンネルでしょ?」

/ ,' 3「そうじゃ。あれも同じ、この福岡県にあるんじゃよ」
  _
( ゚∀゚)「え? マジすか?」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:21:09.44 ID:DQtcPt3P0
オカ板の常連でもある俺には、親しみのある場所だ。
心霊スポットの中では全国でもトップクラスの知名度を誇る犬鳴トンネルはここから南東、
山陽新幹線の路線を挟んだ反対側に位置する。

ちなみにこのトンネルは新旧とふたつあり、問題は旧トンネルの方だ。
もっとも、封鎖は老朽化に伴うもので心霊現象とは関係ない、とは言われている。

('A`)「そういや、『犬鳴村』ってのも、ありましたね」

都市伝説の一種で、根も葉もない作り話ということになっている。

犬鳴トンネルの付近に恐ろしい村があって、そこには人食い人種が住んでいるとか。
村の入り口に「ここから先は日本国憲法が適用されません」という立て札があるだの、
あまりにもヤバ過ぎるので日本の地図からは抹消されているだのと、凄まじい話だ。

/ ,' 3「ああ。まあ、あれは真実味に欠けるがの。
    本当の犬鳴村の住民の方々にはいい迷惑じゃな」

付近に「犬鳴村」という村は実在する。
だが、そちらは当然、普通の人が住む普通の村だ。この都市伝説とは関係ない。

他にも、少しなら知っている。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:25:28.99 ID:DQtcPt3P0
('A`)「あとは、菊姫の怨霊……とかですか」

/ ,' 3 「そうじゃ。ときの宗像氏の家中争いから始まった、いわゆる『山田事件』が
    元じゃな。この時殺された菊姫と四人の侍女の怨霊が現れるという噂は、
    なぜか今日に至るまで続いておる」

「菊姫の怨霊」。
これも、オカ板のローカルスレでも話題に上がるほどの知名度だ。
  _
( ゚∀゚)「へー。でかいおっぱいの美女の亡霊なら大歓迎だけどなー、オレ」

教授は、もはやジョルジュの相手をするのは諦めたらしい。

/ ,' 3 「次に。この山は、なぜか他の場所に比べて植物の種類が豊富なのじゃ。
    ここでしか見られない亜種も多い。
    植物の研究のためにここを訪れる人もいる程でな」

続けながら、開いた手記をぱらぱらとめくる。

/ ,' 3 「この灯籠の記述が真実であるかどうかは、ワシには分からん。
    ただ、そういった不思議な話が成り立ちやすい土壌であるのは、確かなようじゃな。
    それに、これは……」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:28:58.66 ID:DQtcPt3P0
('A`)「それに?」
  _
( ゚∀゚)「なんだよ、センセー。
     焦らさないでいいからさ、教えてくれよ」

/ ,' 3「……いや。ここまでにしておこう。
    上で、調べたいこともあるしの。続きは本丸跡まで登ってからじゃ」

途端に、ジョルジュはげんなりした顔になって煙を吐く。
  _
( ゚∀゚)「マジかよ、まだ登るの?」

教授はその言葉も聞かずに手早く手記をしまい、歩き出していた。

/ ,' 3「ほれほれ、急がんと日が暮れてしまうぞ」

決して緩くはない山道を、ひょいひょいとえらい勢いで登っていく。
あれで荷物持ちだの力仕事だのと、よく言ったもんだ。

('A`)「行くぞ、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「わーったよ! ったく、こりゃ明日は筋肉痛確定だな」

煙草をもみ消して携帯灰皿に押し込み、軽く屈伸する。
俺も足を軽く動かしてほぐし、ふたりで教授の後を追う。

山から見下ろした下界。そして心地良い風。
身体は重いが、気分転換のお陰で身体は軽かった。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:33:21.41 ID:DQtcPt3P0
■ 蔦ヶ嶽城(二)

(,,゚Д゚)「ゴルァ。城下に、面白き者どもが来ておるようであるな」

( ´∀`)「いかにも、仰せの通り。流れ来た旅芸人にございますモナ」

蔦ヶ獄のお城は、山中にあって偉容堂々。
本丸までを備えた、中々の山城である。

その、藩主の擬古。
腕に覚えあり、性情は豪放磊落。
多少堪忍袋の緒の短きものの、程々に良き殿のようであった。

( ´∀`)「芸は軽業、人形にゴゼ歌。ありきたりと云えば、ありきたりですモナ」

側仕えの茂名。
しかして、と続ける。

( ´∀`)「最後の、女の見世物。これがなんとも、評判にて」

(,,゚Д゚)「見世物、とな?」

芸ならまだしも、香具師まがいの見世物が評判とは、いかに。

( ´∀`)「いかにも。絵灯籠にござりますモナ。
      何でも、触れずともひとりでに灯り、果ては宙を舞うのだとか」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:36:16.64 ID:DQtcPt3P0
(,,゚Д゚)「……ふむ」

顎の辺りを、さすりさすり。

(,,゚Д゚)「一度、見てみとうなったぞ。
    灯籠も、むろん女もだ。ゴルァ」

( ´∀`)「仰せのままにござりますモナ」

茂名、深くこうべを垂れてかしこまる。

かくして、夕刻。
布袋ていの小男を筆頭とする、芸人一座。
赤間のお城に招かれる運びとなったのであった。

領主の居所に招かれ、芸を披露する。
そう云ったことはあったようであるが、なにぶん賤民。正門を潜ることは、まかりならぬ。
家人用の勝手口から参じて、また辞したとのことである。

一座もしかり。しばし待たされた後、質素な作りの間に通される。

(,,゚Д゚)「おう、おう、その方らが、くだんの」

先頭で平伏していた小男、控えめに顔を上げ。

( ^ω^)「御招きに預かり、至極恐悦にございますお。
      座長、内藤にござりますお」

また伏す、四人。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:39:27.12 ID:DQtcPt3P0
藩主、座長とその後ろ、大男。
ちらと胡弓弾きの娘を見、最後に異国風の女、その手元の灯籠を見る。

(,,゚Д゚)「ほ、ほう」

美しい。
長く直ぐ伸ばした髪は、まさに翡翠のかんざし。
肌はしろく透き通り、舶来の絹のようなきめこまやかさである。

(,,゚Д゚)「よい。おもてを上げよ」

ゆるりと上げる顔の造作は茂名の言葉通り、見慣れぬ風。
だが、それがまた。まさに、唐の絵巻に描かれる天女の如しである。

( ´∀`)「殿は、その方らの芸を御所望モナ。
      くれぐれも粗相のなきように、モナ」

小男、へえ、と頭を下げ。

( ^ω^)「かしこまりましてござりますお。
      我ら芸人、もとより芸をおいては語れませぬお。されば――」

(*゚ー゚)「……」

小男の合図で大男は立ち上がり。娘は、しゃりん、と胡弓を掻き鳴らす。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:44:05.26 ID:DQtcPt3P0
軽業は、ここでは舞えぬ。代わりに踊り、ゴゼ歌、人形廻し。

そして、最後に。
絵灯籠の女が、立つ。

川 ゚ -゚)「これなるは、天下にただ一つの宝――」

涼しげで、それでいて心の底をぬるく、とろかすような、不思議な声である。
絵灯籠に、火が灯り。

(,,゚Д゚)「おう、これは――」

さしもの擬古も目を剥いて、浮かんで灯るその灯籠を、食いつかんばかりに見込む。
見れば、その絵灯籠。箱のごとく、上下にまで障子紙が貼られている。
風の入り込む隙間もないのに、灯っているのである。

(,,゚Д゚)「うむ。ううむ」

そして、また、この深い青の、なんとも言えぬ色合いの灯り。
女は、戯れるように手を、ひらひらと。
それにつれて、絵灯籠もくるくる、舞う。

川 ゚ -゚)「――これにて」

女の言葉とともに。
灯籠は光を収め、静かに、しろいたなごころに舞い降りる。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:47:10.39 ID:DQtcPt3P0
(,,゚Д゚)「いやはや。眼福、眼福。大儀であるぞ。ゴルァ」

茂名とふたり、ぽんぽんと手を打つ。

(,,゚Д゚)「して、その灯籠。
    その方ら。いかにして、そのようなものを」

下がった女に代わり、一座の主。

( ^ω^)「唐より流れ来たものを、買い上げたものにてござりますお。
      なんでも、海を渡り、遠く西方の国から運ばれたものだとか」

(,,゚Д゚)「ふむ――」

藩主擬古、腕を組み、しばし思案。
悩んでいるのである。

――欲しい、この灯籠
   手元に置いておきたい

そう、考えているのである。
身体の奥底を貫くような、深い光に身が震える。
考えれば、考えるほど、数分前の絵灯籠の青い光が思い出され、思いが募る。

とうとう、ついに。

(,,゚Д゚)「その絵灯籠。儂に……譲る気はないか?
     むろん、相応の礼はするぞ」

そう口走っていた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:51:04.53 ID:DQtcPt3P0
(; ´∀`)「と、殿?」

突然、何を。
驚いたのは、家臣である。

( ^ω^)「それは、それは――」

座長、口をつぐみ、黙する。
代わりに口を開いたのは、女であった。

川 ゚ -゚)「芸をお気に召されるは、ありがたきことなれど。
     この絵灯籠は、一座の宝。手放せませぬ」

(,,゚Д゚)「ほう」

藩主の眉が、ぴくり、と吊り上がる。

(,,゚Д゚)「どうあっても、手放せぬ、と?」

なにゆえにこれ程までに己が灯籠を欲するのかは、解らぬ。
だが、欲しい。あの灯籠を手元に置き、気の済むまで眺めたい。
断られれば、尚更にであった。

(; ´∀`)「そ、そこな女――」

茂名、見かねて声を上げる。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:54:16.33 ID:DQtcPt3P0
だが。女は進み出、平伏する。

川 ゚ -゚)「殿。なにとぞ、お聞き届けいただけますよう。
     我々、一座が売るは芸のみなれば。そも――」

(,,゚Д゚)「何と?」

女、つい、と顔を上げ。
静かな声で。

川 ゚ -゚)「殿は、お山の民草を治めるお方。されど私めら、一座は根無し草。
     山路に根付かぬ草なれば、殿の刈り取る道理もなかりましょう」

言葉こそ、涼しいものの。
云っていることは、全くの暴言である。

――私たちは、お前の支配地の住民ではない
   だから、お前の我儘に従う義理などない

そう云っているのである。

(; ´∀`)「お、女っ」

茂名、刀の柄に手を掛けて立ち上がる。
主君を、目の前で賤民に揶揄されて、捨て置けようはずもない。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:57:40.20 ID:DQtcPt3P0
(,,^Д^)「……はははっ!」

だが。
あろうことか、擬古は笑い出し。

(,,^Д^)「河原乞食が、一国の主に楯突くか。
     ゴルァ、気に入ったぞ! ギコハハハハハ!」

そう云って膝を打つ。
この擬古、心根は豪胆、怖いものなし。
女の態度に、どこか通ずるものがあったようである。

(,,゚Д゚)「あい分かった、不躾であったな。
     良きものを見せて貰った。大儀であったぞ」

藩主は素直に頷き、賛辞する。
女の実直な言葉に、心根が冷水を浴びせられたようであった。
気付けば、灯籠に感じていた、くらい欲望は去っている。

芸人達は、お咎めなし。
この夜は、これにて仕舞いとなった。



しかし。

藩主擬古、こののち、煩悶することとなる。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:59:55.75 ID:DQtcPt3P0
( ,,゚Д゚)「……」

( ´∀`)「殿、殿。いかがなされましたモナ?」

( ,,゚Д゚)「ああ――いや、少しばかり、思案しておった。気にするな」

公務の最中も、床に就いた後も。
あの美しい女芸人の手にあった絵灯籠が、忘れられぬのである。

寝ても覚めても、思い起こすのは灯籠の深く青い灯。
まさに天女に恋い焦がれるが如き有様であった。

――あの絵灯籠が欲しい
   あの作り、描かれた絵、そして言葉にもならぬ美しい光
   己の手許に、何としても欲しい――

一旦は治まった、胸の奥の欲望は、おき火の如く甦り。
ちりちりと、日増しに強まり、休むことなく藩主をさいなむのであった。

それが、何日ばかりも続かぬうちに。

(; ´∀`)「と、殿っ。
      いかがなされましたモナ、その有様?」

(ヽ゚Д゚)「……ゴルァ……」

藩主は、遂に。
食事もろくに喉を通らぬほど、憔悴し果ててしまったのである。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:02:18.96 ID:DQtcPt3P0
□ 城趾にて(3)

歩くこと、さらに十数分。
俺たちはようやく山頂、蔦ヶ獄城の本丸跡に辿り着いていた。

正直、かなりペースは遅い。
俺とジョルジュはかなりの大荷物で、その上運動不足だからだ。
  _
(; ゚∀゚)「ひい、はあ……。
     ここが本丸跡……って、何もねーな、おい」

('A`)「確かに、そうだな」

平らにならされ、開けた広場。
初夏の日差しが降り注ぐこの場所には、城があったと言えるような痕跡は何ひとつなかった。
一足先に着いていた荒巻教授は、手近な木の柵に腰を下ろして本を開いている。

/ ,' 3「厳密に言うと、全く何もない訳ではないがの。
    城の基礎の跡は、この山じゅうに確かに残っておる。
    登ってくる途中も、注意深く地面を見ていれば気付いたかもしれんの」

('A`)「へえ……」
  _
( ゚∀゚)「来る途中にあった石垣は違うんすか?」

/ ,' 3「ああ、あれは昭和になってから造ったものじゃ。
    形こそ石垣じゃが、当時のものではないな」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:05:20.29 ID:DQtcPt3P0
二人の会話を聞きながら、周囲をぐるりと見る。

広場の山側には、音叉のような形をした石碑。
そのすぐそばには、古びた大きな石灯籠。
反対側には小さな掘っ立て小屋があり、他には転落防止の柵ぐらいだ。

('A`)「蔦ヶ獄城……か」

ひとり、小さく呟く。

俺自身、ガラにもなく少しだけ興奮しているのに気付いている。
教授が言うような異変が、本当にあったのだろうか。
その手の本には、その真相が書かれているのだろうか。
  _
( ゚∀゚)「なあ、センセー。とりあえずここまで来たけどさ、次はどうするんだぜ?」

/ ,' 3「そうじゃな。ここから先は、少し道を逸れる。
    山道に入ることになるかの」

教授はベンチに腰掛け、古書を見ながら答えている。
その視線は、山登りを始めてすぐのものとは打って変わって真剣に見える。

思えば、教授が真剣になるところなんて一度も見たことがなかった。
ゼミでも講義でも、静かな調子で淡々と進めるスタイルだった。

/ ,' 3「ジョルジュ君。荷物から地図を出してくれんか」
  _
( ゚∀゚)「はいはーい」

どうでもいいけどお前はさっさと敬語を習得しろ。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:08:27.10 ID:DQtcPt3P0
ジョルジュは、ずしん、と地面に響きそうな程の勢いでリュックを下ろす。
バインダーを取り出し、それを教授に差し出して。
  _
( ゚∀゚)「あいよ。でもさ、その辺入ってっちゃっていいの?
     あっちこっちの立て札に脇道禁止って書いてあったぜ?」

/ ,' 3「役所に許可は取っておる。問題はないよ」

事も無げに答えて、教授はバインダーを受け取る。
そこから、やはり古びた紙を取り出して開いた。
手記を膝の上に置き、しきりに地図と見比べ始める。

/ ,' 3「しかし……急の支度など、するものじゃないのう。
    地図の写しもろくに取れなかったわい。ああ、まったく腹立たしい……」

ぶつぶつ呟きながら、あちこちに首を巡らせる。

じきに無言になり、目だけをぎょろつかせて見回す。
その様子は、心なしかそわそわしているように見える。

/ 。' 3「……」

歴史を覆すような発見に、興奮しているのだろうか。
熱の籠もった視線で、辺りを何度も、何度も見回し、古地図に目を落とす。

ジョルジュはその様子を退屈そうに眺めていたが……不意にいたずらっぽく
目を輝かせて、教授にこそこそ歩み寄った。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:13:09.71 ID:DQtcPt3P0
  _
( ゚∀゚)「なあ、センセー。
     この古本ってさ、結局何が書いて……」

そう言いながら、ひょい、と教授の膝に手を伸ばす。



/ 。゚ 3「触るなッ!!」



ばしぃっ!

大きな音が、響く。
  _
(; ゚∀゚)「あ――え!?」

(;'A`)「っ!」

ジョルジュが、そして俺も、身体を強ばらせる。

――教授が、手記に伸びたジョルジュの手を、思い切り払いのけたんだ。
そう分かったのは、振り切られた教授の手を見てからだ。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:17:25.25 ID:DQtcPt3P0
/ 。゚ 3「……ふーっ、ふーっ……」

教授は、すさまじい眼でジョルジュを睨み付けている。
  _
(; ゚∀゚)「あ……」

突然の出来事に、俺たちは何も言えない。

こんなにも感情を露わにした教授は、見たことがない。
怖い、とか、驚いた、とか、そんな感情すら起こらなかった。
さっきまで感じていた興奮も、どこかに吹き飛んでしまった。

たったの一瞬だが、とても長く感じた瞬間。
その後には、教授はすぐに普段の穏やかな表情に戻っていた。

/ ,' 3「……済まんの。この手記、あまり状態が良くないものでな。
    あまり手荒に扱って欲しくないんじゃ」
  _
(; ゚∀゚)「あ……す、すみません」

ジョルジュはすっかり、さっきまでの教授の迫力に呑まれている。
萎縮しきった表情で小声で詫びると、身を翻して俺の方に寄ってきた。
  _
(; ゚∀゚)(なんだよ、なんだよアレ! めっちゃこえーよ!)

('A`)(今のはお前が悪い。反省しろ)

小声で会話を交わす。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:21:15.70 ID:DQtcPt3P0
教授はまだ地図と手記を見比べていたが、やがて納得したように声を上げた。

/ ,' 3「……うむ、分かったぞ!」

言うなり、がばっと立ち上がる。

/ ,' 3「場所の目星は付いた。こっちじゃ」

教授が指さした先は、山側の柵の向こう。
道もない、山の中だった。

('A`)「あっち……ですか?」

/ ,' 3「手記に、本丸から見る景色に触れておる箇所がある。
    そこから方角を割り出すと、こちらじゃ。間違いない」

俺たちの返事も待たず、教授は古地図を折りたたんでバインダーにしまう。
そんな教授を見る俺の胸の奥に、小さな疑問が湧いた。

('A`)「……教授」

それを素直に、教授にぶつける。

('A`)「その本。教授は、どこで手に入れたんですか?」


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:23:36.82 ID:DQtcPt3P0
/ ,' 3「……」

教授はゆっくり振り返る。
いつもの、静かな表情のまま、黒目だけが留まらず、落ち着かずに周囲を窺っている。

/ ,' 3「これは、知人に譲り受けた。
    同業者じゃがな……本人に、言うなと頼まれておる。これ以上は言えん」

('A`)「……はあ」

素っ気なく、それだけ言って教授は歩き出す。
その口調も、歩調も、やはりどこか焦りのようなものを感じさせた。
  _
( ゚∀゚)「あ、センセー……ちょっと待ってってば!」

ジョルジュが慌てて後を追う。
揺れるリュックサックを見ながら、俺もそれに続いた。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:26:55.78 ID:DQtcPt3P0
山に分け入ると、広かった空もじきに覆い被さるような木々の枝葉に遮られる。
光源は、細くまばらな木漏れ日だけだ。
整地などされてない斜面はでこぼこ。起伏は下生えに隠され、歩きづらいことこの上ない。
  _
( ゚∀゚)「あーもう、ズボンがダメになっちまうぜ……あいてっ!」

ジョルジュが手を引っ込めて声を上げる。
クマザサの葉の縁か何かで手を切ったのだろう。

('A`)「絆創膏でも貼っとけよ。
    そういや、手袋はないのか?」
  _
(; ゚∀゚)「ンなもん持ってねーよ! こんなコトするなんて思ってなかったしよ」

がさがさ、と、膝ほどまでの高さの草をかき分けて、山道を行く。
荒巻教授はもうずいぶん先行していて、俺たちはその背中を必死に追う形になった。
  _
(; ゚∀゚)「センセー、センセーっ!
     早すぎるって! ちょっと待ってくれよー!」

教授は、こちらを振り向きもしない。
手元に開きっぱなしの手記を持ったまま、どんどん進んでいく。

/ ,' 3「……」

だが、ジョルジュの声が届いたのか、歩調がわずかに緩んだ。
その内に、俺たちは必死に進む。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:30:43.95 ID:DQtcPt3P0
足を大きく上げ、草を蹴って倒木や枝を押し退け、大股で歩く。
陽が届かない森の地面は水を含んでいるようで、降ろした足は柔らかい感触とともに
微かに地面に沈み込んだ、

ようやく、教授に並ぶ。
教授は、落ち着きなく周囲を見ている。

/ ,' 3「どうしたんじゃ、情けない。
    さっさと進むぞ。日が暮れん内にな」

表情こそ静かだが、興奮しているのか、焦っているのか。
そう感じられる早口だった。

('A`)「教授。俺たち、どこに向かってるんですか?」

教授は答えない。
  _
( ゚∀゚)「……センセー?」

/ ,' 3「今は言えん。だが、そこまで行けば分かる」

('A`)「『そこまで』? 『そこ』って、どこなんですか?」

/ ,' 3「……」

教授は視線を落として、手記のページを繰り。
それを何度か繰り返した後で、手記を見たまま答えた。

/ ,' 3「……『塚』じゃよ」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:34:22.37 ID:DQtcPt3P0
  _
( ゚∀゚)「塚ぁ? 俺たち、この城が江戸時代まで残ってた証拠を探すんじゃないの?
     そんなモン見付けてどうすんだよ、センセー」

ジョルジュの疑問ももっともだ。
俺は黙って教授を見る。
教授の表情は、眉毛に隠れて、見えない。

/ ,' 3「……」

/ ,' 3「……絵灯籠」

手記をめくり、ぽつり、と漏らす。
それから視線を上げて、そして中空に視線を彷徨わせて。
教授は、唐突にあの話の続きを始めた。

/ ,' 3「ときの藩主は、芸人を城に召し、芸を観覧した。
    そして、絵灯籠を見たとき……それが、どうしても欲しくて堪らなくなったのじゃ」
  _
( ゚∀゚)「なんだよいきなり。なんで灯籠の話なんだよ?」

/ ,' 3「黙って聞け。知りたいと言ったのはお前達じゃろう」

にべもなくジョルジュを遮る。
その声はひどく冷たくて、有無を言わせぬ迫力があった。
  _
(; ゚∀゚)「……」

/ ,' 3「藩主は痩せ細り、食事もロクに喉を通らんようになってしまった。
    寝ても覚めても、その絵灯籠を忘れられなかったのじゃ」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:38:51.30 ID:DQtcPt3P0
教授の声だけが響き、木々の奥に吸われて消えていく。
森の奥は――薄暗く、湿っていて、そして静かだ。
まるで大昔、電気の明かりさえもない時代にタイムスリップしてしまったように。

/ ,' 3「絵灯籠を自分のものにしたいという思いは、刻一刻と強まり。
    そして、旅芸人達がこの地を去る日の朝……藩主は、ついに決心したのじゃ」
  _
( ゚∀゚)「決心?」

/ ,' 3「……ふん。時間を無駄にしたわい。
    さっさと先に進むぞ」

ジョルジュの奴は、相変わらず分かってない。

('A`)「……」

シンプルな方法がある。
どうしても欲しい他人の宝物を、手っ取り早く手に入れる方法が、たったひとつだけある。
それはどんな時代だって、誰にだって可能な方法だ。

取り出した古地図を乱暴に広げて歩き出す教授。
何かに急き立てられるようなその背中を見る。
  _
(; ∀ )「……」

隣のジョルジュを見ると、奴はうつむいて、唇を噛んでいた。
何かを言いたげな……困惑した表情で。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:42:30.76 ID:DQtcPt3P0
■ 蔦ヶ嶽城(三)

関所に向かう、山道。
芸人一座、座長を先頭に、無言で歩を進めている。

( ^ω^)「……」

一様に、無言である。
座長ですらも、あの口上の面影はなく。顔の笑みは変わらぬまま、ただ歩く。

そこに、追い縋る足音、みっつ。
ふと返り見れば、蓬髪の侍を先頭に、三人、足早に。

从 ゚∀从「――そこな芸人、待たれよ」

先頭の侍、声を張り。
立ち止まった芸人一座に、大股に歩み寄る。

( ^ω^)「これは、これは。
      お侍様、いかがなされましたかお?」

満面の笑みで振り返る、座長。

从 ゚∀从「手前は、高岡と申す。
      内藤布袋の一座と見受ける。相違は、ないな?」

( ^ω^)「いかにも、仰せの通りでございますお。高岡殿」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:45:45.89 ID:DQtcPt3P0
侍、大きく頷いて。

从 ゚∀从「過日は、御苦労であった。
      主らの芸、御殿はいたくお気に召しておいでだ」

座長は疑う様子もなく、愛想良い声を上げる。

( ^ω^)「滅相もない。我ら一同、御殿様にお目通り叶い、過分の幸せにござりましたお」

高岡は。

从 ゚∀从「会者定離、芸は惜しいが仕方も無し、せめてもの餞別に、駄賃を取らせよ、と。
      御殿より仰せつかっておる」

そう云い、懐に手を差し入れる。

( ^ω^)「これは、また。重ね重ね、ありがたき幸せ」

愛嬌ある仕草で、ひょいひょいと歩み寄り、頭を下げる。

从 ゚∀从「なに。気にするな、ほれ――」

その手が、刹那のうちに懐から差し出され。
手首は返り、瞬く間に腰の柄に伸び――



――ぞぶり


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:50:15.10 ID:DQtcPt3P0
(  ゚ω゚)「……!」

己の腹の中央に。
深々と突き刺さる、脇差。

小男、何事かと高岡を窺い見る。

その頭に、なさけ容赦なく。今度は、大刀が、降り下ろされた。

――がつッ

笑みの眉間に中程まで、額骨を立ち割り食い込み。
つつ、と、どす黒い血が垂れる。

(; ゚ω゚)「が――」

その柄を握りしめ。腹に足を当て、食い込んだ刃を抜きながら、高岡、号令する。

从# ∀从「やれいっ――」

そして。

控える侍たちは、木漏れ日に濃い影をおどらせた――

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:54:56.03 ID:DQtcPt3P0
その夕。

参じた茂名の手にある物を見るや、藩主擬古。
破顔し、稚児の如くに手を叩いて驚喜した。

(ヽ^Д^)「おう、おう、でかしたぞ。
      でかしたぞ、茂名」

( ´∀`)「……」

あの、灯籠であった。

(ヽ^Д^)「さあ、寄越せ。それを、早う寄越せ」

よろめきながら立ち上がり、痩せた手をふらふら、伸ばす藩主。
それを茂名は、じ、と見遣る。

――これが、あの精悍であった御殿か

( ´∀`)「……」

茂名は、動かない。
主君の変わり様を前に、改めて、何も言えぬのである。

――殿は、このようなお人であったろうか
   無辜の民を殺して奪った宝に、眼を輝かせるようなお人であったろうか――

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:56:34.38 ID:DQtcPt3P0
だが。

(ヽ゚Д゚)「早う、寄越さんかっ!」

あろうことか、藩主はモナを突き飛ばし。
その手から引ったくるように灯籠を奪い取ったのである。

(; ´∀`)「モ、モナっ?」

そのまま、部屋の隅に。茂名に背を向け、座り込む。
その、藩主の手で。

灯籠が――輝く。

海の底に似て青く、玄妙なる光。
それを全身に受け、藩主は喜悦の声を上げる。

(ヽ^Д^)「ああ、おお、そうじゃ、これじゃ。
      儂はこれが見たかったのじゃ。これ、これを」

そう云いながらも、背中は茂名に向けたままである。
身体で庇って、絵灯籠が誰の目にも触れぬよう、隠しているのである。

(ヽ^Д^)「茂名、ご苦労であった。下がれ。
      儂は忙しい、控えておれ」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:59:38.75 ID:DQtcPt3P0
藩主擬古、その肌はうす蒼く、腕も肩も痩せさらばえて細く。
骨と皮ばかりになった顔の、青光を照り返し、うつろに透き通った白目。
その中心でくろぐろと据わった瞳を見開いて、灯籠を見据える。

(; ´∀`)「……殿」

家臣が、云う通りに下がらぬのを見るや。
藩主擬古、振り向き突如、豹変する。

(ヽ゚Д゚)「聞こえなんだか、茂名。
     下がれ! 不忠者っ、お前の顔など見とうないわっ!」

不忠者、とまで云われては、従う他ない。
歯噛みしながら平伏し、下がる茂名の背後で。

(ヽ Д )「……ひ、ひひっ」

異様にうわずった声が。
藩主の口から、漏れた。

その、夜。
青い光だけが、いつまでも消えることなく、薄開きの襖から漏れていたのであった。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:03:06.66 ID:DQtcPt3P0
□ 城趾にて(4)

森は、薄暗い。
奥に進むにつれて木の密度は増していく。
ついには、木漏れ日も通さないほどになっていた。

俺はずっと考えている。

教授の様子、聞かされた絵灯籠の話。怪談、怪奇現象。そして、植物の亜種。
纏まりの取れないそれらの情報が、何の確たる答えも出ないまま。
ただ、不安の形を取って頭の中で渦を巻く。
  _
( ゚∀゚)「ドクオ、なあ、ドクオ」

ジョルジュの声に、我に返る。

('A`)「ん……ああ、なんだよ。ションベンか?」
  _
( ゚∀゚)「バッカ、違えよ」

そう言うと、俺の隣にぴたりと身体を寄せて、小声で。
  _
( ゚∀゚)「なあ。教授……大丈夫なのかよ?」

言われて、前を進む教授を見る。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:05:57.24 ID:DQtcPt3P0
教授は数歩進む度に立ち止まり、古地図と手記を見比べ。
いきなり地面にはいつくばり、足下の草を払い、そうかと思えば。

/ ,' 3「違う、ここでもない」

立ち上がり、忌々しげに吐き捨てる。

/ ,' 3「おかしい。方向は合っているはずじゃ。
   見逃したか、それとも……」

ぶつぶつ呟いて、また猛然と歩き出す。
その繰り返しだった。

/ ,' 3「……違う、違う、違うっ。
   まだか、『塚』はまだ見付からんのかっ」

その声は、荒々しい。
教授は、明らかに焦っている。

('A`)「どうだろうな。興奮してるんじゃないのか?」

確かに教授の様子は、いつもとは全然違う。
けど、それは歴史を覆すような発見の可能性から来るもので。
だから教授は荒れてるんだと、そう思っている。

他には、理由が思い付かない。
  _
( ゚∀゚)「……」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:07:38.72 ID:DQtcPt3P0
ジョルジュはまた唇を噛む。
でも、やがて意を決したように顔を上げた。
  _
( ゚∀゚)「な、ドクオ。聞いてくれよ。
     ……山のてっぺんの広場でさ。オレ、教授の本を取ろうとしただろ?」

('A`)「……ああ」

あの時の教授の声と表情は、脳裏に焼き付いてる。
  _
( ゚∀゚)「……あの時さ。
     ほんのちょっとだけど、オレ……見たんだよ」

いつものジョルジュからは想像も付かない、頼りない声だ。

('A`)「何をだよ?」
  _
( ゚∀゚)「ちらっとだったけど、たぶん、間違いない。
     でもホントに一瞬だったし、マジかどうかは分かんないけどさ……」

暗い森の中で、ジョルジュの顔は、蒼ざめているように見える。
口ごもったその顔を、俺は見る。
  _
(; ゚∀゚)「オレ……見たんだよ。
     あの本に……あれ、もしかして――」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:09:53.01 ID:DQtcPt3P0
その言葉の続きは聞こえなかった。
突然、教授が飛び上がって叫んだからだ。



/ 。゚ 3「見付けた、ついに見付けたぞっ!」



森中に、響き渡るほどの声で。

(;'A`)「教授っ?」
  _
(; ゚∀゚)「センセー、っ……」

/ ,' 3「こっちじゃ、間違いない!
   やはり、やはりワシは正しかったんじゃあっ!」

言うが早いか、急に進路を90度左に。
両腕を振り回しながら、高い茂みの向こうに、走り出していった。

/ ,' 3「ワシは、ワシは……ワシは、ついに見付けたぞ!
    これで、これで――――……」

がさがさ、がさがさと茂みを押し退ける音が、小さくなっていく。
後には、静けさだけが残った。
  _
(; ゚∀゚)「……行っちまった……」

(;'A`)「……」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:11:57.67 ID:DQtcPt3P0
何だ。

何が、どうなってるんだ?
見付けたって、その「塚」をか?
  _
(; ゚∀゚)「ドクオ、ど、どうする?」

ひどく情けない声で、ジョルジュが言う。
そんなの、決まってる。

(;'A`)「当然だ。追い掛けるぞっ」

そう大きな山じゃない。
注意深く歩いていれば、その内登山道に戻ることもできるだろう。

でも教授は、あの様子じゃそうも行かないはずだ。
あの調子で走り続けて、足を滑らせたり、斜面から落ちたりすれば。
あの老体だ。絶対にタダじゃ済まないだろう。

('A`)「ほら、行くぞジョルジュ。
    いくら様子がおかしくったって、放っておくわけにいかないだろ」
  _
(; ゚∀゚)「で、でもさ。オレ、見たんだよ。あの本――」

(#'A`)「本の話なんか後にしろよ! 行くぞ!」

まだ悩んでいる様子のジョルジュを半ば引きずるように。
俺たちは教授が消えていった方に、走り出した。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:14:04.15 ID:DQtcPt3P0
(;'A`)「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……!」
  _
(; ゚∀゚)「センセー……どこ行ったんだよ……」

ひたすら走る。
進めば進むほど生い茂り、背の高くなる草をかき分けて。

周囲の様子は、ほとんど藪のようだ。
膝ほどの高さだった草花は、俺たちの腰より上の高さにある。
生えている植物の種類自体が、変わってしまったようだ。

(;'A`)「しかし……どうなってんだよ、これ」

周囲を囲むのは、見慣れない葉ぶりの草木ばっかりだ。
ねじくれた枝から伸びる、左右非対称の大きな黒っぽい葉。
目の前に垂れ下がったそれを手で払う。

払って、気付く。
周りの木の枝は、こんなに低くまで垂れ下がっていたっけ?

視界の下半分は藪、上半分は木の葉。
鬱蒼と茂る植物に視界が覆われて、ひどく見通しが悪い。

湧き上がる何かを押さえ込むように。
声を張り上げる。

(;'A`)「くそ、どっちに行ったんだよ! 教授ッ!!」
  _
(; ゚∀゚)「何だよ、何だよコレ……センセー、どうなってんだよこれ……!」

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:17:46.37 ID:DQtcPt3P0
(;'A`)「くそっ――――?」

視界の隅に、何かが映る。
草を蹴飛ばしながら駆け寄って、固い草の茎に引っかかったそれを手に取る。

それは、旅行者向けのポケットサイズのガイドブックだった。
見覚えがある。教授が今朝、ホテルの売店で買ったものだ。

「蔦ヶ嶽城、別名を赤間山城(あかまやまじょう)、または岳山城(たけやまじょう)
 といいます。この地は神代の昔、土着の神様が赤い馬に乗って神武天皇を迎えた事から
 『赤馬(あかむま)』と名付けられました。それが転じて『赤間(あかま)』と呼ばれ、その――」

途中のページが開きっぱなしになったそれを拾って、ポケットに突っ込む。
教授は、ここを通ったのか。

('A`)「こっちだ。
    行くぞ、ジョルジュっ」
  _
(; ゚∀゚)「ド、ドクオっ」

ジョルジュは疲労困憊している。
その脇をひっつかんで引っ張り、茂みを突っ切った。

と――

急に、視界がクリアになる。

伸びた草も木の枝も途切れて、開けた広場のような場所。
そこに、俺たちは立っていた。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:20:05.96 ID:DQtcPt3P0
('A`)「……!」

その中央を見て――俺たち二人とも、絶句する。



―― 一言で言えば、「花畑」。
   でも、咲いているのは、毒々しい紫色をした、ヤマユリに似た大輪の花。
   それが、半径5メートルほどの円形に、びっしりと群生している。



円形の広場のような、緑色の草地の中に咲く、紫の花。
花自身の重さだろうか、風もないのに、ゆらゆらと揺れる。
それは一瞬、何か大きな生物の、グロテスクな内臓のようにも見えた。
  _
(; ゚∀゚)「ドクオ、あ、あれ……」

ジョルジュが震える指で、その異様な花畑の一角を指さす。

/ ,' 3「……」

荒巻教授がそこにいた。
教授は弛緩しきった表情で、手記を持った手をだらり、と下げて。
その口から。

/  3「……ひひっ」

引きつった笑い声が、漏れた。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:25:11.66 ID:DQtcPt3P0
■ 蔦ヶ嶽城(四)

藩主が灯籠を手にした、その翌朝。

朝餉の時間をとうに過ぎても姿を見せぬ擬古を、呼びに。
寝所を訪れのは、茂名であった。

( ´∀`)「殿、殿っ。
      朝餉の支度、とうに――」

控えめに、戸を引き、声を掛け。

(; ´∀`)「と、殿っ?」

絶句する。

(ヽ Д )「――ひ」



(ヽ'゚Д。)「ひ、ひひっ」



そこにあるのは、変わり果てた姿の主君であった。

擬古は、定まらぬ目で宙を見ながら。
今や光を失った灯籠を抱え、乳飲み子の如くに喘いでいるのであった。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:27:25.28 ID:DQtcPt3P0
(ヽ'゚Д。)「あ、ふひっ。あば、あばああ」

(; ´∀`)「殿、気をお確かに。殿っ!」

(ヽ'゚p。)「あ〜〜〜〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜!」

主君の変わり様に。
駆け付けた御典医も、ただ首を捻るばかりであった。

無理もない。
憔悴していたとはいえ、他には異変の見られぬ人間が。
一夜にして、突如、狂を発したのである。

(; ´∀`)「殿……」

鬱屈した精神が、芸人を殺したことによって限界を迎えたのであろうか。
それとも、他になにか計り知れぬ出来事が、君主の身に降りかかったか。

ところで。
擬古が、討手を差し向け芸人を殺害せしめた事は、茂名の他には高岡以下、
下手人の侍自身しか知らぬ。

――言うべきでは、ない

そう判断し、固く口をつぐんだ。

実を云えば、恐ろしかったのである。
あの芸人共の怨念が黄泉返り、擬古を狂気に至らしめたのではないか。
そう思うと、口に出すことすら憚られたのである。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:37:38.18 ID:DQtcPt3P0
結局、全てが謎のまま。
後には発狂した藩主擬古だけが、残されたのであった。

(ヽ'゚p。)「あ〜〜〜。
      あばばあ、あ〜〜〜〜〜」

外様大名の藩主に跡継ぎはなく、ことが公になれば、お家取り潰しは避けられぬ。
ひとまず、お城に匿っておこうと云うことになった。

かくして。藩主は赤子同然のまま、自室に押し込められていたが。

ある日、何を思ったか。
いかにしてか、見張番の目を盗んで外に飛び出し。
お城の裏山に小さな穴を掘り、そこに首を突っ込んで窒息死してしまった。

そして。

あの夜、高岡が斬り捨てた、女を除く三人の芸人の死体。
これまでもが、忽然と姿を消していたのである。
まるで、そのような一座は、元よりこの世には居なかったのだ、と云わんばかりに。

代わりに、山道に打ち捨てられていたのは――高岡以下三人の、屍であった。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:40:16.26 ID:DQtcPt3P0
(; ´∀`)「た、高岡の、屍がっ……それは、まことかモナっ」

(;´・ω・) 「は。検分致しましたが、いかにも相違ございません。
       しかし、なぜ高岡が……」

報せを寄せた侍の言葉に、茂名は震え上がった。

あの灯籠を欲して奪った、主君。
芸人を殺し灯籠を持ち帰った、高岡。

それでは、次は。
主君の命に従い、旅芸人殺害を侍に命じた、自分の――

茂名の頭にあるのは。
あの絵灯籠の、青く光る様である。

(; ∀ )「……」

(´・ω・`) 「まずは、高岡の弔いを。
       しかる後に、侍殺しの罪人を探し――」

(; ∀ )「……僧を……」

(´・ω・`) 「……茂名殿?」

(; ´∀`)「弔いなど、いいモナ!
      僧を呼ぶモナ! は、早く!」

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:43:41.36 ID:DQtcPt3P0
茂名が考えたのは、己の保身。それだけであった。
主君への忠誠も、何も。とうになかった。

――その日の内に、近隣の寺社から僧侶が集められた。

あの絵灯籠の、供養のためである。

絵灯籠はあらん限りの供養を受け、山の神として。
城の裏の山の斜面に鎮守の塚がしつらえられ、そこに祀られる運びとなった。

その後数日、異変らしい異変が起こることもなく。

茂名以下、家臣は、胸を撫で下ろした――

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:45:43.66 ID:DQtcPt3P0
□ 城趾にて(5)

/  3「ひ、ひ……ひひっ。ひひ、ひひひゃっ」

教授の笑いは止まらない。
だらしなく開いたままの口の端から、よだれを垂らしながら。
棒立ちのまま笑い続けている。

('A`)「教授!」

/ ,' 3「ひ、ひ。見付けたぞ……ここが、これこそが。
    これこそが、『瑠璃絵灯籠鎮守塚』」

るりえとうろうちんじゅづか――それが、教授の言っていた「塚」?
  _
(; ゚∀゚)「センセー、何だよこれっ。
     オレ、全然分かんねえよ!」

/ 。゚ 3「まだ分からんのか、馬鹿者が!」

涙声を張り上げるジョルジュに、目をくわっと見開いて一喝する。
身体をわななかせて、口から泡を飛ばす。
  _
(; ゚∀゚)「ひっ!」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:48:53.76 ID:DQtcPt3P0
/ 。゚ 3「領主が狂死した後、家臣は祟りを恐れ灯籠を供養した。
    そして本丸から見えるここに塚を築き、祀ったのじゃっ」

('A`)「……」

旅芸人を殺して、灯籠を手に入れた領主。
領主はその後、発狂して、死んだ。

祟りなんて、バカげてる。

でも……目の前のこれは、何だ?
この異様な花畑を、教授の様子を、どう説明すればいい?

/ 。゚ 3「それから四百年、灯籠はここで待っていたのじゃ!
    歴史から抹消されてなお、待ち続けたのじゃっ!!」

教授は、感極まって叫ぶ。

/ 。゚ 3「待っておれ。ワシが今、いまっ! ひ、ひひひっ!」

目の前に広がる、奇妙な花畑に踏み込む。
力任せに紫の花をはね除け、蹴飛ばして、その中心部に向かう。

肉厚の花びらはぶぢぶぢと千切れ飛んで、同じ紫色の液体を滴らせる。
腕も顔もその液体まみれになって、教授はまるで泳ぐように腕を振り回しながら、
花畑の中を進む。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:52:38.30 ID:DQtcPt3P0
  _
(; ゚∀゚)「せ……センセ――ッ!」

ジョルジュが背中の荷物を投げ捨てた。
教授に向かって、花畑に向かって一直線にダッシュする。

(;'A`)「ジョルジュっ?」

教授と同じように花を蹴立てて走り、後ろから教授に抱きついた。
  _
( ;∀;)「もういいって! オレたちを驚かそうと思ってこんなコトしてるんだろ? な?
      オレ、もう反省したよ! だから、いつものセンセーに戻ってくれよおっ!」

涙をぼろぼろとこぼしながら両腕を教授の身体に回して、力任せに引き留めようとする。
  _
( ;∀;)「もういいんだよ、センセー! オレ、十分怖かったからさあ!
      レポートだってちゃんと出すから、だから頼むよ、元に――」

でも、止まらない。教授より二回りも大きいジョルジュが、逆に引きずられている。

/ 。゚ 3「うるさいっ! この、糞ガキがっ!」

教授は腕を振りかざし、ジョルジュの身体を引きはがす。
  _
( ;∀;)「がふッ!」

その小柄な身体のどこに、そんな力があるのか。
ジョルジュは吹っ飛んで地面に叩き付けられた。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:56:04.47 ID:DQtcPt3P0
(;'A`)「……教授、ジョルジュッ!!」

一瞬迷い、倒れたジョルジュの方に駆け寄る。
ジョルジュの腕の戒めから逃れた教授は、花畑の中央まで辿り着き。
そこに屈み込み、地面をまさぐる。
  _
( ;∀;)「ぐ、げほっ、セ、センセー……っ!」

(;'A`)「……!」

教授は、ゆっくりと、立ち上がった。
俺たちの目の前で、両手を天に差し伸べるように、高々と掲げながら。

/ 。゚ 3「ひ、ひひ、ひっ。
    見付けた、つ、ついに見付けたぞ!」

――その手に、あったのは。
木枠の六面に、青い絵を描いた和紙を貼った、直方体。

江戸時代にあったものなのに、木枠もそのまま、和紙も古びてはいるが破れていない。
なんで、こんなものが原型を保っていられるんだ?

でも、とにかくそれは――間違いない。

教授の話に出てきた、絵灯籠に違いなかった。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 02:57:41.16 ID:DQtcPt3P0
■ 蔦ヶ嶽城(五)

先般の通り、藩主に跡継ぎはなく、藩は取り潰しの沙汰となった。
だが、その後。
奇怪、と云うには妖異幻怪に過ぎる出来事が、次いで起こり始めたのである。

始まりは、凶作であった。
並の凶作ではない。

昨日までは青々と育っていた葉が、一夜にして枯れる。
あるいは、奇妙な色かたちにねじくれて育つ。むろん食べられたものではない。

時を同じくして、奇病が蔓延した。
全身に形容しがたいできものが広がり、あるいは生きながらに腐り崩れ。
いずれも、最後は発狂して死に至る。

城内で真っ先にこの奇病を発したのは――茂名であった。
全身を瘤のような腫れ物に覆われたその死に様は、筆舌に尽くし難いものであったという。

異変はまた、産まれる子供にも、等しく降りかかった。
手足やその指、目、口の欠けた赤子、逆に多すぎる赤子。

ひどいものになると、人の形を留めぬ肉塊。
「ひるこ」として産まれてくる者まで。

藩主、侍の死に始まり、凶作、流行り病、畸形の赤子。
それらの凶事には、一見して些かの関わりも窺えぬように見えた。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:00:14.33 ID:DQtcPt3P0

だが。

果たして、まことの所は、どうであろうか?

思えば。
作物の異変が起こり始めたのは、芝居小屋の裏の畑からではなかったか?
病を訴えたのは、芝居小屋に足繁く通っていた者から順にではなかったか?
畸形の赤子は、その中の、身籠もった女から生まれたのではなかったか?

そうであるとするなら。
あの灯籠を供養することに、いかほどの意味があったのであろうか。

しかし、それを問おうにも、答える者は、一人とても居らぬ。
人足ははや途絶え、城下で僅かに生き長らえた者も、国を捨てた。

かくして、赤間の山城は廃墟と化した。


147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:03:36.82 ID:DQtcPt3P0
□ 城趾にて(6)

/ 。゚ 3「ひ、ひひひひひ。ひひゃ、ひひっ。
    ワシだけの宝、ワシのものじゃ。誰にも渡さんぞ、ワシの、ワシだけの――」

聖火ランナーのように絵灯籠を掲げ、口から泡を吹きながら。
不明瞭な言葉と一緒に、教授は笑っている。
  _
( ;∀;)「なんだよ、なんだよコレ。
      どうなってんだよドクオ、コレどうなってんだよ……」

地面に手を付いたままで、ジョルジュがしゃくり上げる。

(;'A`)「知りたいのは、俺の方だよ!」

俺たちは、どこにいるんだろう。
一体いつから、どこに迷い込んでしまったんだろう。

薄暗い森の中で青白く浮かび上がる、教授の笑い続ける顔。
異様な陰影を落とすその顔は、ひどく歪んだ髑髏のようだ。

(;'A`)「……っ、!」

後じさった足が何かを踏む。
首をひねり見下ろすと、それは教授がずっと持っていた手記だった。

この手記が、全ての始まりだ。


150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:06:19.49 ID:DQtcPt3P0
教授はどこからかこれを手に入れて、俺たちを誘った。
俺たちはそれに従って、この蔦ヶ獄城にやってきて、そして。

(;'A`)「……」

この手記には、何が書かれてるんだろう。
教授は、ここに書かれた事を知ったせいで、おかしくなってしまったのか。

別に、深い考えがあった訳じゃない。
気付いたときには、その手記に手を伸ばしていた。
  _
(; ゚∀゚)「ドクオ、こんな時に何してんだよお前っ!」

拾い上げた掌に、妙な感触が残る。
じっとりと湿って、粘るような。

(;'A`)「……?」

妙な感触に首を傾げながら、俺は本のページをめくる。
細く切った和紙が、ぼろぼろと草に落ちる。

(;'A`)「なんだ、これ……?」


152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:09:52.50 ID:DQtcPt3P0
その本は、めちゃくちゃだった。

途中のページが何枚も乱暴に破り取られ、皺が寄っている。
断面は白く、新しい。少なくとも、破られてからそう日は経ってない。

別のページには、古びた和紙に直接ボールペンか何かで線を引いたり、直接注釈を
書き込んだ後がある。しかも、あまりに強い筆圧で書き込みをしたせいで、ペン先が
紙を突き破り、インクが裏側のページにまで染み込んでいる箇所が、いくつもある。

ジョルジュが言いかけたのは……これの事か。
  _
(; ゚∀゚)「おい、ド、ドクオ!
     お前、今さらそんなモン!!」

ジョルジュの言葉にも構わずに、俺はひたすらページを捲る。

書き込みの密度は、後に進むにつれ増していく。
後半になると、筆で書かれた原文が読めないほどにびっしりと書き込まれ、
更にいくつかの単語がぐりぐりと、力任せに何重もの円で囲まれている。

そして、最後から何ページ目かを開いた瞬間、俺は息を呑んだ。

(;'A`)「……!」

褪色した和紙に点々と飛ぶ、大小いくつもの赤黒い染み。
真新しいそれは……恐らく、血痕だ。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:12:48.66 ID:DQtcPt3P0
改めて裏表紙を返して見ると、全面が同じ色に染まっている。
まるで、血溜まりにこの本を置いて、浸したように。
慌てて裏表紙から手を離し、汚れのない表の表紙を持つ。

教授は、この本を誰から、どうやって手に入れたのか、教えてくれなかった。

――どうしても欲しい他人の宝物を、手っ取り早く手に入れる方法が、たったひとつだけある。
それはどんな時代だって、誰にだって可能な方法――

(;'A`)「……まさか……」

また、本に、視線を落とす。

開いているのは、最後のページだった。
そこに、他のどんな場所よりも強く、何重にも何重にも。
赤いペンで囲みを付けられ、線を引かれ、乱れた注釈が書き殴られた単語がある。

「内藤布袋夫」。
そして「唐来閉造絵灯籠」。



('A`)「……『ないとうほていふ』。
    『とうらいへいぞうえどうろう』……」


155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:16:05.80 ID:DQtcPt3P0
この単語が何を意味するかは分からないけど……ひとつだけ、分かったことがある。

それは、教授がもう、この山を登る前からとっくにおかしかった、ってことだ。

破かれ、元の文章も読み取れないほど書き込まれ、血の染みまで付けて。
こんな状態の本を、教授は何食わぬ顔で持ち歩いてたんだ。
そして何でもないような顔をして、俺たちの目の前に置いて、何度も開いて。

それは、正気でできる事じゃ、ない。
  _
(; ゚∀゚)「ドクオッ!! おい、ドクオッ!
     あ、あれッ!!」

ジョルジュの切羽詰まった声が、俺を現実に引き戻した。
地面にへたり込んだまま差す指の先を、見る。

(;'A`)「え――――?」

教授の手の絵灯籠が――絵灯籠が。

ぼう、と。
青い光を、発している。

周囲を染め抜くように、青く透き通った光が。
その和紙の内側から漏れて、教授を、花畑を。
そして俺たちを、周囲の森を照らす。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:18:59.38 ID:DQtcPt3P0
/ 。゚ 3「ひ、は……か、ぐ、げっ」

教授の笑いが止まる。

灯籠を掲げたまま、棒立ちになったまま。
喉につかえたような声を上げて、いきなり全身をぶるぶると震わせ始めた。
口に溜まった泡が、糸を引いてだらだらと襟元に流れ落ちる。
  _
( ;∀;)「なんだよ、な、なんだよお。
      一体どうなってんだよ、オレ怖えよ、ドクオっ!」

青い光は、少しずつ、少しずつ、強くなっていく。
踏み荒らされた紫の花の影が伸びて、俺たちの身体に掛かり始める。

(;'A`)「き、教授ッ!」

何が起こってるのか、何が起こり始めてるのか。
分からないまま、教授をなんとかしようと走る。

青い光は、もう直視するのが難しいほどに強い。
目を細めながら毒々しい色の花を掻き分け。
つんのめり、転びそうになりながら教授の所まで辿り着く。

(;'A`)「教授、教授!
    しっかりして下さいっ!」

肩を掴んで揺さぶっても、教授は反応しない。
焦点の合わない目をして、地面にピン留めされたように上体をがくがく揺らす。

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:22:05.84 ID:DQtcPt3P0
(;'A`)「教授――!」

/ 。゚ 3「あ、が、がッッ」

身体につられて、絵灯籠が揺れる。木枠が軋み、かたかたと音を立てる。

灯籠の中に、光源が見える。
いびつな球体をしたそれが、電球のように、閉じこめられた灯籠の中から強い光を発している。

(;'A`)「くそ……っ!」

これを、何とかすればいいのか?

そうすれば、教授は――
  _
(  ∀ )「うわああああああッッ!!」



――悲鳴は、後ろから聞こえた。


  _
(  ∀ )「ドクオ! な、何だよこれッ! うわ、わああっ!
     何なんだよ、何が起こってるんだよ!  ドクオ、ドクオッ!!」

背後のジョルジュの姿は、表情は見えない。
ただ、叫び声だけが聞こえる。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:24:10.84 ID:DQtcPt3P0
/ 。゚ 3「ふ――げくッ」

ジョルジュのその声と、ほぼ同時に。
教授の震えがぴたりと止まった。

俺は、その顔を見る。
驚いたような表情で固まっている教授の、涎で濡れた口元を、深く刻まれた皺を、
長い眉毛の下の瞳孔が散大した、その一杯に見開かれた瞳を、見る。

青を通り越した白光。



俺は――動けない。

教授の瞳から、目を離すことができない。



165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:26:19.37 ID:DQtcPt3P0
  _
(  ∀ )「ドクオ、何してんだよ! こっち来てくれよ、足が、足が痛くて立てないんだよ!
     助けてくれよ! なあ、ドクオ! 聞いてるのかよおッ!!
     お前まで、どうしちまったんだよ? なあっ!」

開ききった瞳孔は、何の像も結んでいない。

黒く、弛緩したその瞳は、周囲の光景をそのまま映している。

俺は、それを見ている。瞬きさえ忘れて、磨かれた鏡のようなその瞳を。
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(  ∀ )「あああ、ああ……やだ……やだよ、オレやだよ!!
     ドクオ、頼むよ! なあ、おい! お願いだから、たす」






静寂。






170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 03:29:25.18 ID:DQtcPt3P0

俺は、ただ、教授の瞳を見ている。

灯籠の光の中に、その瞳の中に。



ふるふると震えながら、異様な形状に歪み、狭窄していく、その瞳に映る――――












                   ――――俺のすぐ背後に迫る「もの」の、その姿を。





                                              <終>


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