ギバちゃんのようです('A`)

326 名前:ギバちゃんのようです('A`) 1/5 ◆ZFk8YA1wFA 投稿日:2011/04/09(土) 20:30:17 ID:uz7tHd8s0
もう、夜も近かった。
黄昏時の通学路。薄青く暗い曲がり角の先を、カーブミラーの影を、必要以上に意識して歩く。

('A`)「……くそ」

壊れた立て札、焦ったブーンの顔。昨日の出来事を思い出しながら、足早に家路を辿る。
気にすることはない。大丈夫だ。そんなはず、ない。だって、誰が何と言おうと、あいつは……。

なのに。
通りがかった公園の入り口の横、電信柱の影。そこに、季節外れの黒く長いコートを着た男が。
目深に帽子を被って、その手には細長い、銀色に光るものをぶら下げて、そして。

(;'A`)「!!」

――ダメだよ……みんなのものを、壊しちゃあ。

                           * * *

(; ^ω^)「ど、どうするんだお……ドクオ。これ、直せそうにないお……」

植え込みに踏み込んだ俺の足元には、古ぼけて朽ちた木の立て札が折れて、倒れていた。
二人で帰りながらふざけていて、ブーンが俺を押したんだ。それで、これを蹴飛ばしてしまった。

(; ^ω^)「ドクオ、し、知ってるかお? あの噂話。
      みんなの物を壊した奴を追いかけて、それで包丁を……あの、『ギバちゃん』が――」

(#'A`)「――そんなの、そんなのウソに決まってるだろっ! テキトー言うんじゃねえ!」

「ギバちゃん」。その単語を聞いた瞬間、俺は……気が付くと、ブーンを遮ってどなり返していた。
腹立ち紛れに立て札の残骸を踏み潰して、俺はそのまま、ブーンを置き去りにして歩き出した。

327 名前:ギバちゃんのようです('A`) 2/5 ◆ZFk8YA1wFA 投稿日:2011/04/09(土) 20:31:16 ID:uz7tHd8s0
                           * * *

(;'A`)「くそ……くそ、ウソだ、そんなの、そんなはず、ないんだ!」

どんなに足を早めても靴音はついて来る。歩調は次第に速くなり、最後には駆け足になった。
数メートルおきに並ぶ街路灯の頼りない光の下を縫って、自分がどこに向かっているのかも分から
ないまま走る。ほとんど転がるように、でたらめに曲がり角を折れる。走りながら、叫ぶように言う。

(;'A`) 「ウソだ、『ギバちゃん』なんかいるはずない、そんなはずっ、ないんだ! だって……」

そうだ。俺だけは知ってる。「ギバちゃん」なんて奴は実在しない。真っ赤なウソだ。
だって、「ギバちゃん」の噂話を作って流したのは……他でもない、俺自身なんだから。

                           * * *

「怪人アンサー」っていう都市伝説がある。携帯電話を使って呼び出す怪人の都市伝説だ。
でも、実はこの都市伝説は自然発生したものじゃなく、創作された「人工の都市伝説」だった。
けれどその話は他の本物の都市伝説と同じように広まり、たくさんの人に信じられていた。

('A`) 「なあ……『ギバちゃん』って、知ってるか?」

それを知って、俺は……同じことを、試してみたいと思った。理由は大したものじゃない。
人が作った噂がどうやって、どこまで広がっていくのか、俺も見てみたいと思ったんだ。

('A`) 「『ギバちゃん』っていっても、あのギバちゃんじゃないぜ。『ギバ』ってのは、柳刃包丁の『ギバ』
    のことなんだ。……これは、俺の友達が先輩から聞いた話なんだけどさ……」

適度に興味を引き、そしてイメージしやすい外見。暗闇に溶け込む黒いコートで、手には柳刃包丁。
そんな姿をした異常者が、公共物を壊した不届者を追い掛けてメッタ斬りにする。それだけの話だ。
でも、たったそれだけの他愛もない「噂話」は……予想をはるかに上回る早さで浸透していった。

328 名前:ギバちゃんのようです('A`) 3/5 ◆ZFk8YA1wFA 投稿日:2011/04/09(土) 20:31:52 ID:uz7tHd8s0
(;^Д^)「おい、やべえよギコ。オレさ、この前公園のゴミ箱に蹴り入れてへこましちまったんだよ。
     一応反対側から叩いて直したけどさ、『ギバちゃん』、オレんとこ来んのかな……」

(,,゚Д゚)「ゴルァ。直したんだろ? なら大丈夫だべ。
    壊してもすぐに直すか、三分以内に『ごめんなさい』って三回言えば助かるらしいぜ」

(;^Д^)「そ、そうか……よし。効果あるか分かんねーけど、家帰ったらそれも一応言っとくわ」

作り話を本気にして怯える奴を見るのは面白かったし、痛快だった。噂になるぐらい面白かったんだ
ろうな、って思うと、どこか誇らしくもあった。何しろ、俺の名前も顔も知らないDQN達まで真っ青な顔
をして「ギバちゃん」の話をしてるんだから。そんな奴らを見て、俺は陰でほくそ笑んでた。

でも、楽しかったのは最初だけだ。俺はいつからか、得体の知れない恐怖を感じるようになっていた。
「ギバちゃん」は……いつからか、まぎれもない実在の殺人鬼として語られるようになっていたからだ。
俺の頭の中にしかいなかった怪人は、俺の手の届かない所でよりリアルに、凶悪に成長していた。

俺の作り話にはどんどん尾ひれが付いて、ひとりでに膨らんでいった。
「ギバちゃん」は、公共物を壊して遊んでいる暴走族を注意したために、そいつらに顔を斬り裂かれ、
それが原因で発狂して殺人鬼になったんだ、と言われるようになった。そして去年起こった通り魔事
件の犯人も実は「ギバちゃん」で、だから柳刃包丁は犠牲者の血と錆で赤黒く汚れている、と。

そう。架空の存在でしかなかったそいつは、「学校」という狭い世界で沢山の人に語られ、恐怖される
ことで実在感を増し、現実と空想の境界を超えて現実を侵し始めていたんだ。恐怖し忌避するほどに、
一歩ずつ。それは、いつしか……その境界をまたぎ越え、もしかすると、まさか、本物の血と肉を――

                           * * *

(;'A`) 「っく、げほっ、ごほっ!」

長時間走り続けたせいで脇腹が痛い。膝が笑う。とうとう、俺は立ち止まって電柱に手をついた。

329 名前:ギバちゃんのようです('A`) 4/5 ◆ZFk8YA1wFA 投稿日:2011/04/09(土) 20:32:39 ID:uz7tHd8s0
革靴の底が地面を叩く硬質な音は、一定のペースで、どんどん、どんどん、近付いてくる。
コートの裾が翻り、街路灯に照らされたコンクリ塀に、怪物の口に似た鋭い影の切込みを入れる。
慌てて身体を起こし、あいつから逃げようとする。けど気持ちがはやり、上半身だけが前に泳いだ。

(;'A`) 「ひ……うわっ!!」

踏み出した脚の膝が、かくんと折れる。俺はとっさに両腕で顔をかばい、俯せに地面に転がった。
腕の内側が鼻にぶつかって、鼻の奥に、つん、と鋭い痛みが広がり涙が滲む。全身が、頭もパニ
ック状態で、立ち上がるって発想が浮かばない。ただ両腕で頭をかばう。足音はもう、すぐそこだ。

(;'A`) 「う、ううあッ、ううう……っ!!」

俺が作った話の通りなら、俺はこの後……そう思った瞬間、涙がどっと出て、頭が真っ白になった。

( ;A;) 「う……ウソだ……っ! ウソだ、『ギバちゃん』なんてウソだ! 想像上の存在なんだ!
     存在するはずないんだ! こんなのあっていいはずがないんだ! だからあっ!!」

無我夢中で叫びながら俺は、這いずって逃げようとする。腕と膝でアスファルトを擦って、腕が擦り
切れるのも構わずにそいつから、その場から遠ざかろうとする、その俺の肩に……ぽん、と、手が
置かれた。浅黒くて筋張ったその手には……鈍い鉄色に光る刃物、研がれた包丁が。

(#;A;) 「う……うわああああああああああぁ――――っ!!!」

包丁は、勢いよく振り上げられ――そして、振り下ろされなかった。

(   )「……ぷ……ぷぷっ、ぎゃははははははっ!」

こらえきれない、といった様子の笑い声。
包丁が脇のほうに投げ捨てられ、肩を掴まれて引き起こされる。
街灯の下に浮かび上がったコートと帽子の中身は……見覚えのない、同年代の男子生徒だった。

330 名前:ギバちゃんのようです('A`) 5/5 ◆ZFk8YA1wFA 投稿日:2011/04/09(土) 20:33:58 ID:uz7tHd8s0
( ;A;) 「……え……?」
  _
( ゚∀゚)「いやあ、怖がってくれたようで何よりだぜ。にしてもお前怖がりすぎだろ、はははっ!
     あ、オレ? 三年の長岡ってんだ。ブーンと同じ陸上部だよ。いちお、お前の先輩な」

何が何だか分からない。思考がついていかない。ただ地面にへたり込んで、両手を地面についた。
湿った泥の感触が手の平にへばり付く。見ると、そこは昨日俺が立て札を倒したあの植え込みだ。
  _
( ゚∀゚)「ほらお前、昨日ブーンと『ギバちゃん』の話でモメたろ? そん時、なんかお前が超ビビリ
     入ってるっぽいから、仕返しがわりにちょっと脅かしてやってくれって頼まれてよ。へへっ」

(;'A`) 「じゃ、じゃあ、『ギバちゃん』は」
  _
( ゚∀゚)「は? ンな奴いる訳ねーだろが。お前も信じてんの? バッカみてえ。
     ま、いっか。ブーンに頼まれてっからな、記念写真撮らせてもらうぜ。ちょっと座ってろよ」

……やっぱり、「ギバちゃん」なんかいなかった。あれは当然、噂話の中だけの存在だったんだ。
実感が湧いてくるのと同時に、全身の緊張が解ける。先輩を見上げて、大きくため息をついた。

その先輩の左目が震え、もごもごと動いて盛り上がり、そして……ぼこり、と眼窩から飛び出した。

('A`)「えっ」

透明な液体で濡れた眼球はすぐ目の前で紐状の何かをくっ付けたまま落ち、ズボンの腿で跳ねて
植え込みの中に、ぼさっ、と落ちる。そこには昨日俺が倒した立て札と先輩の包丁が、そして包丁
が落ちた勢いで千切れた花と欠けたレンガの破片が、街路灯の光を受けてせわしなく瞬いていた。

先輩の眼のあった所から赤黒く汚れた刃、柳刃包丁の長い刃が突き出て眼窩を縦に裂いている。
黒ずくめの「何が」が、その背後から覗き込むように乗り出して、大きく口を……でたらめな方向に
生えた、黄ばんだ乱杭歯を剥き出しにして……ぱっくりと、開き、笑った。           <終>


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